この小説を書き始めた頃、眼科で緑内障の診断を受けました。このままだと、いずれ失
明すると言われ、初めて「目が見えなくなる」ことを意識しました。
幸い早期発見だったので、目薬の治療だけで落ち着いています。視力を失って行く絵師、
冬芽は、それがきっかけで思いついた登場人物です。
この物語は、一人の男の「罪と罰」がテーマになっています。罪とは何か?罰とは何
か?許されるとはどう言うことなのか?
刺客を役目としていた御刀屋清一郎は、領主が代替わりをした折に罪を問われ、故郷を
追われます。許嫁であった八重とも引き離され、京へ流れついた彼は、そこで月夜乃行馬
の名で物書きの道を歩むことになります。
挿絵を描いたのが、女絵師、冬芽。その縁から、二人は互いに弾かれ合って行きます。
平穏な京での暮らしの中で、己の過去を忘れて生きる御刀屋清一郎……。
ところが、そこにかつて刺客仲間であった横田源之丞が現れ、彼は人殺しであった頃の
己と、再び向き合うことになるのです。
この小説を書きながら、私は「死刑制度」について考えていました。「生と死」、そして
命について。これらは、ずっと私の中にテーマとして存在しています。私自身、それらを
考えるために、物語を書いているように思えるのです。