妻を救うため、絵師は〈京の闇〉に踏み込んだー。異界が見える絵師土佐光信は、都の空に不気味なひび割れを見た。そんな折、妻が囚われの身に。光信は心優しき友箕面忠時や、不思議な女〈つづれ〉の力を得て、見えざる戦いに挑んでいく。幽鬼が群れ、地上に慟哭が満ちた時、謎の神獣が姿を現した。瓦解に瀕した都を守るため、光信が取った命がけの最終手段とは・・・・。感動を呼ぶ傑作長編。
この作品は「幽玄の絵師 百鬼遊行絵巻」の続編です。
光信を主人公にした三好昌子『幽玄の絵師 百鬼遊行絵巻』は、霊や妖物が見える特殊能力を持つ光信が、義政の命で御所をさまよう血塗れの女、呪詛された屏風、、笑う小鼓といった謎に挑むのだが、怪異が合理的に解明されるミステリーもあれば、奇怪な展開になる伝奇小説もあり、さらに事件には応仁の乱前夜の複雑な政治状況がからむので歴史小説としても秀逸な奥深い作品になっていた。続編となる本書『室町妖異伝 あやかしの絵師奇譚』は、応仁の乱による乱戦が激しくなる中で、再び光信が奇怪な事件に巻き込まれていくもので、前作よりスケールアップしている。本書からでも戸惑うことはないが、前作を読んでおくと物語がより楽しめるだろう。(中略)
作中の義政は、妖童子なる妖物に取り憑かれている。妖童子は、有力大名を争わせて兵力と財力を削ぎ、再び将軍家が力を取り戻すという義政の願望を叶えようとしているが、次第に妖童子が義政を操っているのか、義政が妖童子を操っているのか判然としなくなる。著者は、時に人間の欲望が妖物さえも凌ぐ現実を描くことで、戦乱はあくまで人が起こすもので、それを未然に防いだり、現在進行形の戦争に終始符を打ったりできるのも人しかいないことを強調している。ロシアによるウクライナ侵攻は終わりが見えず、日本の周辺でも緊張が続き安全保障政策が転換された時期に、応仁の乱を通して戦争の本質に切り込んだ本書が書かれた意義は大きいのである。
末國 善己