朱花の恋

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著書紹介

朱花の恋

あらすじ

江戸時代に京都で名を馳せた易学者・新井白蛾。
彼の霊能力は、易具である算木に秘められた美しき巫女・朱姫がもたらしたものだった。
彼だけが見え、話ができる朱姫との清らかな恋。
だが「秘易を手にするものが己のために占えば、力を失う」という言葉通り、自らの運命は杳として知れなかった。
京に相次ぐ火難の謎を追ううち、秘易の意味や出生の秘密等が明らかになり――。
実在の人物を主人公に占術と恋を描いた時代小説。

新井白蛾(あらい・はくが)
江戸中期の朱子学者、易学者。正徳五年生まれ。
名は祐登(すけたか)、字は謙吉(けんきつ)。織部とも呼ばれていた。

崎門(きもん)学派の菅野兼山に師事し、その後、京都に移って易学を研究し、「八卦見の白蛾先生」と呼ばれ、名を馳せた。著書に「古周易経断」「老子形気」など。

著者コメント

これも、私には珍しい恋愛小説です。ただ普通の男女の恋愛にならないところが、いかにも三好作品らしいと言えます。謎を追うミステリー色を入れつつ、思いきり幻想味は、五段階の「五」。ファンタジー好きにはたまらない作品になったと自負しています。
私が「新井白蛾」という人物を知ったのは、二十年ほど昔のことです。資料は乏しかったのですが、ただ京都に住んだことがあり、さらに「易」をこの国に根付かせた人物、というところに惹かれて、彼の物語を書きたいと思いました。
その後、彼を主人公にした作品は、何度も改稿を重ね、登場人物もストーリーも変更しながら、やっと今回、世に出せる作品に仕上げることが出来ました。肩の荷が下りた、というのが、今の正直な気持ちです。

解説

「美」と「奇」と「謎」の糸で「心」を織りなす―三好昌子は、多士済々(たしせいせい)の歴史時代小説界において、そんな独自の世界を描いてきた作家です。
三好昌子は、第十五回「このミステリーがすごい!」大賞で優秀賞を受賞した、「京の縁結び 縁見屋の娘」で二0一七年にデビュー。娘が代々二十六歳で命を落とすという家に生まれたヒロインを巡る謎と壮大な因縁を描いたこの作品を皮切りに、作者は伝奇ものを中心に、京を舞台とした個性的な歴史時代小説を次々と発表していくことになります。絵師の業と彼らの目に映る美の世界を題材とした「群青の闇 薄明の絵師」「幽玄の絵師 百鬼遊行絵巻」「狂花一輪 京に消えた絵師」の「絵師」三部作、平安時代を舞台に妖(あやかし)たちの跳梁(ちょうりょう)と宮中の権謀術数に巻き込まれた元皇族武士の彷徨(ほうこう)を描く「うつろがみ 平安幻妖秘抄」、庭師の娘が庭にまつわる不思議な事件を解決する連作「鬼呼びの庭 お紗代夢幻草紙」等々デビュー以来、四年間で約十作品と決して多作ではありませんが、それだけ内容豊かな作品を発表してきました。そして江戸時代に実在した易学者・新井白蛾を主人公に、世界の運命する左右する究極の易占を巡る本作もまた、その一つなのです。 (中略)
「美」と「奇」と「謎」の糸で「心」を織りなす物語―私は冒頭で、作者の作品をこう評しました。興趣に富んだ伝奇物語(ロマンス)でありつつも、それと同時に「力」ではなく「心」に重きをおくことによってそこから大きく踏み出し、時を超える想いを描く恋愛物語(ロマンス)として成立している本作は、その一つの精華であります。このどこか不思議な静謐(せいひつ)さと温かみを感じさせる世界に、一人でも多くの方に触れていただきたいと「心」より願うと同時に、本作に魅力を感じた方は作者の他の作品―本作とはまた異なる形で「心」を描いてきた物語たちも手にしていただきたいと、切に願う次第です。
三田主水(文芸評論家)

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