源譲(みなもとのゆずる)は幼くして帝たる父と母を亡くし、東北の鎮守府副将軍として武勇を誇りながらも無欲に生きてきた。だが突然、時の権力者・藤原基経(ふじわらのもとつね)から神霊に憑かれた姫を元に戻せと命じられる。神霊・虚神(うつろがみ)は、幼き頃の約束を果たすなら姫の魂を探すという。譲は約束を思い出せないまま、自分を慕う蝦夷(えみし)の神女・為斗(しんにょ・いと)に入った虚神と、魂がさまよう魔道山に向かう。「魔道山」とはまさに迷いの山のことであり、迷うと山に喰われてしまう。
そして、そこはまた妖しき者たちが住まう禁断の山たった。色(この世)と空(あの世)の狭間に生きる「境界人」(さかいびと)がおり、あの世に行けない魂の坩堝でもあった・・・
壮大で美しい平安幻想絵巻!
作者自身が迷っていたので、主人公もひたすら迷い続けていたというお話です。
山々に囲まれた地方で育ったせいか、私にとって山は特別なものでした。田舎は外灯もほとんどなく、夜ともなれば、ほぼ辺りは真っ暗になります。昼間は、花や木々の色に染まっていた山が、ただ大きな黒い塊となって、幾つも眼前に横たわっているのです。
そこには確かに「何か」がいるような気がします。その「何か」を、「魑魅魍魎」というのか、「神霊」というのか……。
私の山に対する畏敬の念は、その頃から心に刻みつけられたのかも知れません。
物理的な広さや大きさではなく、山は、そのとてつもない深さで、人を呑みこみ、迷わせ、魅了するのです。