鬼呼びの庭

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著書紹介

鬼呼びの庭

あらすじ

『韓藍の庭』 庭師「室藤」は、薬種問屋から、暴風雨で荒れた庭普請の依頼を受ける。職人たちの世話をする、室藤の一人娘・お紗代はある夜、垣根で隔てられた今は使っていない離れの庭から、子供の声がすることに気がつく。つられて足を運ぶと、そこには真っ赤な鶏頭の花が咲き乱れていた。……

 

『時迷の庭』 昔、料亭だった「花下亭」が売りに出され、庭の普請を行った「室藤」の職人、孝太と、庄吉はいらなくなった庭石を引き取ってくる。庄吉はお紗代に石が「もどせ、もどせ」と言っていると話すが、石が話すわけないと言っていたお紗代の前に、大黒姿の老人が現われ、「わしは、あの庭の時標の石じゃ」と話し出す。……

 

『人恋の庭』 古物商「好古庵」のご隠居、嘉兵衛は「庭封じのお紗代」の噂を聞き、助けを求めて「室藤」へやってくる。困惑するお紗代に嘉兵衛は「庭が人を嫌っている」と話し出す。庭が人を嫌うはずはないと考えるお紗代は、その原因を探りに元「雪華堂」の本宅があった庭へと向かうと……。家族の確執から遺った念、紛れ込んだあやかしなど、庭に関わる不思議な事件を、お紗代が解決する感動の時代小説。

著者コメント

これは、「もののけ」に掲載された「韓藍の庭」の続編を短編連作にした作品です。

私が十歳ぐらいの頃、両親は新築の家を建てました。庭には小規模ながら日本風の前栽などがありましたが、父は、さらにバラやライラックを庭の隅に植えたのです。

父は細い鉄製の棒を三角柱になるように組んで、バラの支柱を作りました。夏、バラはその支柱に蔓を巻き付け、クリーム色の大輪の花を咲かせました。

ライラックは、淡いピンクがかった紫色で、とても良い香りがしたのを覚えています。時が経つうちに、いつしかバラもライラックもなくなりましたが、よほど植木が好きだ

ったのか、父は鉢植えの蘭を幾つも育てるようになりました。

今、その家には誰もいません。時折、母が立ち寄っていますが、もうその庭で、遊ぶ子供はいなくなりました。

玄関横の白梅の木の枝で、夏になると黒い烏蛇が涼んでいました。飼い犬はそれが気に入らなくて、見つける度に吠えていました。人の手がほとんど入らなくなった庭は、まるで眠っているようにも見えます。

常に人の傍らに在り、人の暮らしに寄り添いながら、人の想いを呑み込んで、庭もまた、人と共に生きているのでしょう。これはそんな庭の物語です。

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