平成二十五年度、松本清張賞の最終候補になった作品です。
元々、私は油彩画の画家を目指していました。同じ絵描き(なり損ないですが)の目で、「絵師」を表現してみたかったのです。
元来、小説家は、実在する絵師の作品や資料から、想像を巡らせて物語を作ります。私の選んだ絵師、京の狩野家六代目、狩野永良は、早世したこともあってか、ほとんど資料もなく、これといった作品は残っていません。
私は彼のことはほとんど知らないまま、「永諒」という絵師を創造し、自由に絵を描かせました。作中に出て来る絵は、どれも実在しません。強いて言うなら、読み手の頭の中に存在させました。
言葉を絵具にして、読む人の頭の中に絵を描く。そうして創造された絵は、他者には見ることができない、その人だけの物。そういう絵が、この世に在っても良いのではないか。
言霊を操る者としては、それが美しい絵であれば満足です。
ちなみに、私は資料は二割、想像力は八割ぐらいで小説を書きます。資料の分量が多くなると、却ってそれに縛られることになり、イマジネーションが自由に働かなくなるからです(あくまで個人的な感想)。
でも、私は伝奇小説の作家です。ノンフィクション作家でも歴史家でもありません。
言葉を返せば、「嘘つき」です。でも「虚」の中には、大きな「真理」が眠っているかも知れません。何しろ、私は、「シャーマン」ですから……。